Albero
溶け込むフラット

風真颯砂氷室の仲良しグループ修学旅行後のお話
ネタバレあり
CP要素無し(風真;好き、颯砂氷室:友好状態って感じ)
2022/5/23 脱稿


目の前に置かれているのは甘さ控えめ抹茶カステラの箱。しかも三つ。

「……どういうことですか?」

対面に座っている先輩三人に一紀は問いかけてみたが、三者三様に愛想笑いを浮かべるだけだった。
二年生が修学旅行から帰ってきた翌週。お土産を渡したいから、と連絡があったので昼休みに屋上へ向かってみたところ既にこの状態だった。

「お前が甘さ控えめのやつがいいって言ってたから」
「確かに言いましたけど、三本も買います? 普通」

口を開いた風真の言葉に被せるように一紀続ける。メッセージを送ったのは間違いないが、まさかこんなことになるとは。

「まあまあ、いいじゃん! それ、いくらでも食べられるよ」
「僕もノゾム先輩みたいに大食いしろと。面白い嫌がらせですね」

取りなそうとしていた颯砂に言い返すと、何故か三人が顔を見合わせて笑う。何か変なことを言っただろうか。
どういうことか聞こうとすると風真が手を挙げて一紀を制止する。

「いや、俺たち三人ともがこれ買ってきた時にイノリ、どんな反応するかなって話してたんだ。ホントに思った通りの答えが返ってきておかしくてさ」

まだくすくすと笑いが残る口調で風真が言う。どうやら示し合わせて三人で同じ物を買ってきた訳ではないらしい。
どんな経緯があったかは大体想像できた。これでは怒るに怒れない。

「……まあ、わざとでないのなら良いです。ありがとう、ございます」
「イノリ、今日は素直じゃん」

颯砂が茶化してくるので一紀は口をへの字に曲げる。素直にお礼を言っただけなのに。
ただ彼らに揶揄われることは不快ではない。対等なやり取りのひとつで、一紀にとってはむしろ心地良い。

「せっかくだからひとつ開けてみんなで食べよう」
「いいな。俺の開けるよ」

風真の言葉に颯砂が反応して、目の前に置いてあったカステラの封を切る。びりびりと閉じ目など気にせず、大胆に開けるので思わず笑ってしまった。颯砂らしい。
カステラはあらかじめ切り分けられているタイプらしく、開封した颯砂から順に取っていく。一紀も目の前に差し出された抹茶カステラを手に取って口に運ぶ。
持った感触はふんわりとしていたが、食べてみると案外しっとりしている。一般的なプレーンのものよりも甘さが抑えてあって食べやすい。

「……美味しい」

思わず感想が口から零れる。はっとして目の前を見ると嬉しそうな顔が三つ、一紀の方を向いていた。

「わ、悪くないって言ってるんです」
「ホント、イノリって面白いな」
「カワイイ奴~」

慌てて取り繕うと颯砂がケタケタと笑う。風真も目を細めて楽しそうにしている。彼女は何も言わないが、口元に手を当てて締まりのない顔をしていた。
どうにもこの人たちと居ると調子が狂う。素直な言葉が引き出されてしまう。

「そうだ、一紀くん、これ」

抹茶カステラを食べ終わった手を払って彼女が取り出したのは、ハートの形をした硝子細工だった。

「これは?」

おおよそ一紀へのお土産ではないことが分かる形状に首を傾げると、彼女はふふっと笑う。

「玲太くんと希くんから私に。長崎のハートストーンは四人で触れなかったから」

だからはい、と彼女はハートの硝子細工を手の平に乗せて差し出してくる。経緯が分からず他の二人を見ると、風真と颯砂は何とも言えない顔で一紀の事を見ていた。

「え、僕が悪い流れなんですか、これ?」
「いいや、イノリは悪くないよ。こいつが優しすぎるだけだ」

恐らく颯砂よりも納得がいってなさそうな風真が彼女の頭を小突く。もう、と怒った素振りを見せるが、硝子細工を乗せた手を引っ込める様子はない。

「というか、話の流れが見えないんですけど」

ハートストーンとやらの話と現在の状況が一紀の中で全く繋がらない。恐らく旅行中に三人で何かしらの観光地を巡って来たのだろうが――実際風真が一人で鐘塔と写っている写真が送られてきた――こちらで日常生活を送っていた一紀にはなんのことかさっぱりだった。
それにようやく気が付いたのか、彼女がはっとした顔を見せる。

「ごめんね、これだけ言われても分かんないよね。えーっと、何から説明したらいいかな……」
「要するに、こいつは俺らが贈ったこれにイノリも含めて四人で触りたいんだとさ」

言いながら風真は彼女が差し出していた手に自分の手を重ねる。さりげなく彼女の手を包み込むようにしているがバレていないとでも思っているのだろうか。

「玲太、それだと俺たちが触れないよ」
「俺はお前らが触らなくてもいいんだよ」

颯砂が気が付いて窘めたが彼女のことになると譲り合うことを知らない風真だ。つんとした態度を貫いていると、彼女が不思議そうに風真の顔を見上げる。

「どうして?」
「どうしてって――」

純粋な表情に風真の体が揺らぐ。これだから無自覚な相手というのはタチが悪い。彼女に問われる風真を同情半分で見る。

「ハートストーンには二人で触ると幸せになれるって伝説があるんだって。で、俺達は長崎で三人で見つけてきちゃったんだけど、イノリが居なかっただろ?」

たじたじしている風真を横目に颯砂は一紀に経緯を説明してくれる。そんなところがあったとは知らなかった。

「俺と玲太からアレを贈ったらあの子はイノリも一緒に、って。だから」

ほら、と颯砂は一紀の手を掴んで彼女の手のひらに促す。
先程よりは控えめに彼女の手に触れている風真の隣に手を並べて硝子細工に触れる。ひんやりとしていてなんだか不思議な感覚だった。
一紀の隣から颯砂も手を伸ばして四人の手が硝子細工に触れ合う。数秒後、誰からともなく笑いが漏れた。

「何やってんだ、俺たち」

呆れたような声で風真が零したがどことなく嬉しそうだ。満更でもないといったところだろうか。

「ふふっ。これからも四人で仲良く出来るといいね」

にこっと笑った彼女の顔に花が咲く。今日の天気のような晴れやかな表情に一紀の頬も緩む。

「それは、先輩次第だと思いますけど」
「えっ、同じこと、玲太くんにも言われた」

どういう意味なの?と目で訴えかけられたが視線を返すだけに留めておいた。あまり説明すると今度は風真から刺々しい視線が飛んできそうだからだ。
先輩たちとこうして一緒に行動することが増え、それが当たり前になって。
いつか来る別れの時を想像しないことはないけど、その時がやって来るまで笑い合える日々が続くことを願うばかりだった。
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