Albero
ギフト

両主人公本編後
バレンタイン小説2020
2020/2/15脱稿



うりゅを中心とした一連の騒動があってから一週間。アルレビス学園はバレンタインデーを迎えていた。
と言ってもウルリカには縁のないイベントなので、浮かれている学生を横目にいつも通りアトリエへと向かうだけだ。

「おはよ~」
「おはよぉ」

うりゅと一緒に挨拶をしながらアトリエに入ると、真っ先に目に飛び込んできたのは大量の小包だった。その奥でごそごそと動いているのは白い塊。あれはおそらくゴトーだろう。

「何やってんの?」

動いている白い影に声をかけると、彼は小包の山の横から顔を出す。

「これはお嬢ちゃん、おはよう」
「なんか大変そうね」
「いやはやモテる男はつらいね」

小箱を一つ一つ確認しながら、ゴトーはどれも愛しそうに触れて丁寧に山を積み上げていく。その隣に並ぶようにうりゅがウルリカから離れる。
ゴトーとは約一年の間、アトリエの仲間として過ごしてきたが、結局彼が何故こんなにも女性から人気なのかは分からないままだった。

「お嬢ちゃんは、誰かにプレゼントを贈らないのかい?」
「わたし?」

今日の当番を確認しようとアトリエの隅にある黒板を確認しに行くと、後ろからゴトーが声を掛けてきた。

「贈る相手が居ないんだからプレゼントしようがないわよ」
「お嬢ちゃんが貰う、ということもありそうだけどね」
「わたしが?」

クロエとエナは採取、ぺペロンは探索といった今週の当番を確認しているとそんなことを言われた。果たして、バレンタインは女の子のイベントではなかっただろうか。

「逆チョコってやつ?」
「本来のバレンタインは恋人や親しい人に贈り物をすることだよ。君に何かを贈りたいと思っている人が居ても、おかしくないんじゃないかな」
「へー」

そう言われても他人事に変わりない。浮かれている周りを見ていると余計に思ってしまう。
学園祭のようなお祭り騒ぎならば乗っかりようもあるが、イベントの内容だけに縁遠いものだと感じてしまう。

「ま、わたしには関係ないわ。採取行ってくるね」

黒板のチェックを終え、実行済みの場所にマグネットを動かしていると、ウルリカの声が聞こえたのか、うりゅがゴトーの隣からまたウルリカの元へ飛んでくる。

「気を付けてね」

彼は小包の山から顔を出し、短い着ぐるみの手を振ってウルリカたちを見送った。



今週のウルリカの当番は風吹き高原での採取だった。うりゅを引き連れてかごを持ち、片っ端から採取地を回っていく。途中で出くわした魔物も適当にあしらいながら進む。
一つ目の植物採取地に着くと、そこはまだ先日の騒動の跡が残っていた。

「派手にやったわよね~」

うりゅの力が暴走したことで直後は地面も周りの木々も黒ずんでいたのだが、今は少しだけ緑が戻ってきているようだ。採取できる素材もあるので、陽光のバラや神樹の枝を採っていく。

「……もう少ししたらナイトクイーンが採れるわね」

もうすぐ夕暮れなのでそれまで待てば違う素材も採ることが出来る。ここまで来たついでなので出来るだけ集めて帰りたい。

「う? うー!」

するとウルリカの頭に乗っていたうりゅがふわり、と浮き上がり採取地から下へと向かう道へ一人で飛んでいってしまった。

「ちょっと、うりゅ?」

基本的に探索や採取ではウルリカから離れて動かないので突然のことにウルリカの反応が遅れてしまった。土の付いた手を払い、小さくなっていく白いふわふわを慌てて追いかけていくと、道を下った先に誰かが立っているのが見えてきた。

「あれは……」



ピッケルで鉱石を掘っていたロゼは聞き覚えのある声に手を止めた。見ると小さな白いマナが小さく上下に揺れながら彼の方へ飛んできていた。

「……お前は」

目の前に降りてきたうりゅに手を伸ばすと相手は顔をしかめ、嫌がるように差し出した手を避ける。

「そりゃそうか」

今までの自分の言動を思い出し、ロゼは自嘲気味に笑う。するとうりゅはロゼの差し出した手と反対側の肩に回り、その上に着地した。

「……?」

何故嫌がられたのに肩に乗られているのか分からずロゼは首を傾げる。柔らかい毛が頬を撫でた。そこで差し出した手には光の指輪をしていたことを思い出す。

(これを嫌がったのか)

最初に差し出したのとは反対の手でうりゅの頭を撫でてやると、今度は嬉しそうに笑う。つられてロゼの頬も緩む。

「うりゅー!」

さてどうしたものか、と悩み始めたところでまた聞き覚えのある声が近づいてきた。声の主は目くじらを立ててロゼに迫って来る。

「ちょっとうちの子に何してんのよ!」

見慣れた怒り顔に呆れたため息を返すと彼女は更に眉尻を吊り上げる。ウルリカの声に驚いたのか、うりゅは隠れるようにロゼの頭の後ろに下がる。

「何もしてないだろ。ほら、お前のご主人が来たぞ」

嫌がられていない方の手で促すと、その指先をそっと握ってうりゅはロゼの前に出てくる。そして手を伸ばすウルリカの腕にそのままふわふわと飛んでいった。

「うー、うりゅいか」
「勝手にどっか行っちゃダメでしょ。しかも嫌味男のところなんて」
「だから何もしてない……いや、もういい」

結局何を言っても徒労に終わることばかりだとこの一年で学習した。ロゼは反論しようとした口を大人しく閉じる。

「お前も採取に来たんだろ。さっさとしないと夜になるぞ」

夜は魔物が強くなるので基本的には学園へ戻ることが推奨されている。しかし先ほどウルリカが考えていたように、夜にならなければ採れない素材もある。そういった特殊な素材を狙う学生のために学園側が設置した防御魔法陣付きのキャンプが採取地にいくつか存在する。

「ナイトクイーンを採ってから戻るから良いのよ。あんたこそ、早くしないと終わらないんじゃないの?」

ロゼが持っているピッケルを見てウルリカもそう問いかける。鉱石採掘は時間帯に関係なく、掘れる深度で変わるだけなので植物のように夜や朝を待つ必要はない。

「ここで俺はもう終わりだ。お前も、腕が立つことは知ってるが、気をつけろよ」

腕を払い、手に持っていたピッケルを背負っていたリュックに戻しながらロゼは告げる。このままウルリカと居ればまた意味もなく喧嘩してしまうだろう。
先日の騒ぎで一時的に二人で行動し、共闘もしたが、あの時と違い今はウルリカと居ても落ち着きを感じることなどない。

「言われなくても分かってるわよ」

ぷい、と顔を背けてウルリカはロゼを避けて先へと進んでいく。ここから程遠くない場所にキャンプがあるのでそこで時間を潰すのだろう。
ふ、とロゼはあることに気が付く。そういえば今日は――。

「ちょっと待て」
「何よ、まだなにかあるの?」

迷惑そうな顔をしながら振り向いたウルリカを呼び止め、ロゼは彼女の右手を掴む。

「お前、無茶しそうだから、持っとけ」
「は?」

怪訝そうに眉をひそめるウルリカの手にポケットから出したものを無理矢理握らせる。ウルリカの手のひらに硬い感触。周りも暗くなってきているのでよく見えないが、手に触れた感覚から察するにこれは。

「この前のお礼、って訳ではないが……今日みたいな日なら良いだろう」
「え?」

離された手を見るとエリキシル剤が入った小瓶が二つほど収まっていた。

「これっ」
「使わないで済むように気をつけろよ」

貴重なアイテムのはずだが、ロゼはあっさり手渡し、そのままイカロスの翼を使って学園へと帰っていった。

「……今日みたいな日ならって」

アトリエを出る時、ゴトーに言われた言葉がよみがえってくる。
――バレンタインは本来なら恋人や親しい人に贈り物をする日のこと。
まさかそこまで考えているような様子はなかったが、わざわざ今日みたいな日と言っていた以上、ロゼも日付を意識してこれを渡したことになる。

「ま、まあ貰える物は貰っときましょ」

まさか自分に関係あるイベントだとは思わなかったのでドギマギしてしまう。悔しいがロゼの言う通り、これを使わないに越したことはないのだ。貰っても使わなければ貰っていないようなものだ。
無理矢理納得してウルリカは夕暮れ時を迎える風吹き高原を再び歩き始めた。

上に戻る