Albero
ナイトダンスで手を取る夜に

ロゼウル冒険者エンド
フォロワー誕生日祝い2020
2020/10/15脱稿



すっと意識が浮かび上がるような目覚めだった。寝袋から体を起こすと、体の上に掛けていたロゼのコートがずり落ちる。隣を見るとウルリカはまだうりゅと一緒に心地よさそうに眠っていた。落ちたコートを彼女の上に掛けてやる。
欠伸をしながらロゼは物音を立てないように立ち上がり、テントを抜け出した。
外に出ると朝霧が出ていた。ひんやりとした空気がロゼの頬を撫でる。
近くの小川で水を汲んで顔を洗う。随分と水温が下がっているようで、完全に目が冴えてしまった。
テントに戻るとウルリカが起きた様子はまだない。どこからかロゼのマナが飛んできて、頭の周りを旋回した。朝の挨拶をしているのだろう。
ロゼはマナに微笑み返し、昨晩消した焚火に再び火を灯した。


ロゼとウルリカが二人で旅を始めてから早くも一年が経った。
今は各地を転々と巡りながら、錬金術士として依頼をこなして生活をする日々を送っている。
ロゼとウルリカなので、意見がぶつかることも多く、相変わらず喧嘩は絶えない。
つい先日も調合のやり方で揉めて、あやうく貸アトリエを壊すところだった。なんとか収まったから良かったが、流石に大人げなかったとロゼは反省したものだ。
焚火に集めてきた木の枝を足し、ロゼはその上に鍋を置けるように準備を始める。一週間ほど前に町を出て、今は山間の街を目指しているところだった。順調に行けば今日中に到着する予定だ。朝霧が出ているということはきっと昼には晴れるのだろう。天気の心配はしなくて良さそうだ。
小鍋に先程汲んできた水を入れ、火にかける。テントの中から自分の荷物を持って来て、中からコーヒーの簡易粉末を取り出す。在庫はこれで最後のようだ。次の街で補充できればいいのだが、時期や流通の関係で手に入らないこともある。

「結構冷えるな」

目覚めが良かったので寝床を抜け出したが、外はまだ少し寒い。
秋に入ったので夏の頃よりも朝晩の冷え込みは厳しくなってきているのを感じる。もう少ししたら装備も冬用に変えなければならないだろう。
そうなれば一度拠点がある街まで戻るのが良さそうだ。次の街での作業が終わったら戻ることをウルリカに提案してみよう、とロゼは考える。
湯が沸いたので、コーヒー粉末を入れた木のカップに湯を注ぐ。朝霧のかかるテント周りに芳しい香りが広がった。
一口飲むと喉の奥を熱い液体が流れていく感覚。ロゼが思っているよりも体は冷えていたらしい。手を温めるようにカップを両手で包んで持つ。

「…… ……!」
「どうした?」

ロゼの肩に止まっていたマナが何か言っている。テントの方を指しているようだ。
目を向けると寝ぼけ眼のウルリカとうりゅが大欠伸をしながら出てきているところだった。

「おはぁよぉ」
「おぁよ……」

二人揃って同じような調子で朝の挨拶をするので、ロゼは思わず笑ってしまった。

「おはよう、ウルリカ」
「あんた早いのね……」

ごしごしと目を擦りながら、ウルリカはロゼの右隣に座る。その頭にうりゅがふらふらと飛び乗る。

「目が覚めたんだ。まだ寝ててもいいぞ」
「ううん、だいじょうぶ」

全く大丈夫そうには見えないが、本人がそう言うのであれば無理に二度寝は勧めない。
半分しか開いていない目でウルリカはロゼの手元に視線を向ける。

「それコーヒー?」
「そうだ」
「わたしもほしい」

どうやらウルリカが起きてきたのはコーヒーの香りに釣られたからのようだ。理由が彼女らしくてまたも笑いが漏れる。

「なに笑ってんのよ」
「いや、お前らしいなって思っただけだよ」

くつくつと笑いを噛み殺しながら、ロゼは持っていたカップを差し出す。
てっきり新しい物を淹れてくれると思っていたらしいウルリカは、差し出されたコーヒーを見つめる。

「これはあんたのでしょ?」
「これで最後だったんだよ。残りはない」
「はあ⁉ 最後だったのに相談もなしに勝手に飲んだの⁉」

途端に目くじらを立てて怒り出すウルリカ。確かに残り最後だと分かっていたのにも関わらず、勝手に飲んでしまったのは悪かったかもしれない。
だがこれは前の町でロゼがこなした依頼の報酬のおまけだ。どちらかというと所有権はロゼにあると言っていいだろう。

「怒るなって。今日中には次の街に着くだろ。ならまた買えばいい」
「わたしは今飲みたいの!」
「だからそれやるって言ってるんだろ」
「だ、って、飲みかけ、じゃない」

言いながら語尾が小さくなって、徐々に赤くなっていくウルリカ。
その様子につられてロゼの顔も熱くなっていく。さっきまで寒さを感じていたのが嘘みたいだ。

「……散々人のボトルから水やらお茶やら盗んどいて、今更だろ」
「なっ! ぬ、盗んでなんかないわよ! もらっただけ!」
「どっちも一緒だ!」

夏場の旅道中、ウルリカの補給用の水が無くなったので、勝手にロゼの分を飲んでいたことを指摘すると、拙い屁理屈が返ってきた。
ロゼに声を掛けてない時点で貰ったとは言えないだろう、と続けると、ウルリカはむうと頬を膨らませて、ロゼの手からカップを奪う。
そのまま勢いよく口元で傾けて、中のコーヒーを飲み干してしまった。

「お、お前!」
「次の街で買うんでしょ! だからありがたーく貰っただけよ!」

空になったカップをロゼに付き返し、ウルリカはまたテントに戻って行った。
相変わらず無茶苦茶だ、とロゼは呆れて、もはや染み付いてしまった溜息を吐き出した。



二人が目的の街に着く頃には山の上に太陽が沈みかけていた。手前の空から藍色が広がり、星が見える。
山間の街の灯りは華やかで、近くまで行くと建物や街灯が飾り付けされているのが分かった。

「随分賑やかね」
「ホロウウィン祭だろうな、おそらく」
「なにそれ?」

建物や商店が立ち並ぶ通りに出て、貸アトリエがある宿を探しながら、二人は話す。

「この辺りの地域では昔、今の時期に死者が戻ってくると信じられていたらしい。けどそれに乗じて魔物も一緒にやって来るから、それ等から身を守るための祭りだって聞いたな」
「詳しいのね」
「前の町でこの話になったんだよ」

街の地図を片手に、二人は大通りを進んで行く。
店先、住宅の軒先、花壇の隅など至る所にカボ芋のランタンが置いてある。カボ芋は中がくり抜かれて顔が彫られており、中で蝋燭の光がちらちらと揺れる。
店先の大きなカボ芋を不気味な格好をした店員が客に売っている。洋服店のショーウィンドウには魔女や悪魔をモチーフにしたような服が飾られていた。

「なんか……身を守るお祭りってわりには、みんな浮かれてない?」
「昔は、って言っただろ。今はそこまでの意味はなくて、身を守る為に仮装してたって名残があるだけらしいぞ」
「だからあんな服が売ってるのね」

店員がやたら不気味な格好をしていることにも納得だ。要は仮装イベントらしい。
大通りから道を逸れてしばらく進むと、三階建てのレンガ造りの建物が見えてきた。

「こんばんは~」

建物の正面ドアをウルリカは挨拶をしながら開ける。扉の先にはカウンターがあり、眼鏡をかけた老婆が椅子に座って読んでいた新聞から顔を上げる。

「いらっしゃい。泊まりかい?」
「そう。アトリエも使えるって見たんだけど」
「錬金術士か。この辺りじゃあまり見かけなくなったから、そんなこと言われたのは久しぶりだよ」

椅子から立ち上がった老婆はカウンターの下から分厚い紙束を取り出し、真ん中辺りで開いて羽ペンと一緒に二人に差し出す。

「名前と、拠点のアトリエがあるならそっちの名前も書いとくれ」
「はーい」

身元証明のようなものだろう。ウルリカは素早く自分の名前を書き、羽ペンをロゼに渡す。
ロゼもウルリカの下に連名で書き、紙束を老婆の方に向けて羽ペンと一緒に返した。

「はいよ。料金は後払い。何日滞在の予定だい?」
「今のところ一週間ぐらいかな」
「超えるようならまた教えとくれ。私はここの奥に居るから」

老婆はそう言ってウルリカに鍵を二つ手渡す。部屋番号が書いてあるものと、もうひとつはアトリエの鍵のようだ。

「アトリエは共用で、各階の一番端にあるよ。って言っても、錬金術士の客が
いないから、使うのはあんたらだけだろうけど」
「ありがとう。お世話になります」

二人でぺこり、と頭を下げて渡された鍵の部屋へと向かう。
番号から察するに部屋は二階のようだ。階段を上がって廊下を進んで行くと突き当りに大きな扉が見えた。おそらくあの先がアトリエなのだろう。二人の部屋はその手前だった。
鍵を開けて中に入る。そこまで広くないが、一通りの生活用品が揃っている部屋だった。

「うん、いいじゃない」

二つあるベッドの奥側にウルリカは荷物を下ろし、靴を抜いでそのまま転がる。
ロゼも荷物を下ろし、扉側のベッドに腰かける。

「思ったよりもきれいだな」
「大きな街だから設備がしっかりしてるのも嬉しいところね」

部屋の中には小さいながらに台所がついている。滞在期間はそこまで長くない予定だが、長期になったとしてもこれならやっていけそうだった。

「アトリエも確認して、その後、酒場に行くか」
「そうしましょうか。依頼の品も届けなきゃだしね」

街に着いた安心感はあるが、生活費も稼がなければならない。酒場で依頼を見て、自分たちがこなせそうなものは積極的に受けていきたいところだ。

「でもちょっと疲れたから、もう少しこのまま~」
「寝るなよ」
「分かってるって!」

油断するとウルリカはすぐにうたた寝を始めてしまうので、釘を刺すと鋭い声が返ってきた。
ほとんど根無し草のようなものなので、長距離を移動することには慣れている。それでも街や宿など、人が居て、屋根がある場所に来ると安心するのはロゼも同じだ。
実際今日は朝からそれなりの距離を移動してきているので、ロゼも少し疲弊している。休憩したい気持ちには同意だった。



三十分ほどゆっくりした後、アトリエの設備確認をしてから二人は宿を出た。
向かう先は先程も話していた酒場だ。錬金術士宛ての依頼が集まる酒場がどの街にも一つは存在する。
今回ウルリカ達がこの街を訪れたのも依頼の関係だった。前の町で受けた依頼が、納品先はこちらの街の酒場にしてほしいというものだったからだ。

「地図によるとこの辺りにあるはずなんだが……」
「これじゃない?」

地図を見ながら道を確認していたロゼに、ウルリカは十字路の端に置かれた看板を指さす。
彼女が見つけたのは酒場の看板で、どうやら目の前の建物の地下一階にあるようだ。
細い階段を下りてドアを開けると、活気づいた声が一気に二人を包む。
店内は狭いが、カウンターやテーブルが置けるだけ置いてあり、そのほとんどが埋まっていた。テーブルや椅子の間を縫うようにして店員が料理や酒を持って行き来している。

「大盛況ね」
「時間帯もあるだろうな」

ロゼに言われてウルリカが時計を確認すると夕飯時で、酒場が混み始める時間帯だった。
辛うじて空いていたカウンターへ行き二人並んで座る。うりゅはウルリカの膝の上に大人しく座っている。

「お。お二人さん、見ない顔だね」

酒場の店主らしき男がロゼとウルリカの顔を見て、笑いながら話しかけてくる。

「今日この街に着いたの。随分にぎわってるのね」
「そりゃそうさ。今晩はホロウウィン祭だからな」
「あ、そうなの?」

カウンターに置かれた水を飲みながらウルリカは聞き返す。ロゼの説明ではこの時期、ということだったのでそういう祭りが近いんだな、ぐらいにしか思っていなかった。

「街の中央広場には行ったか? 燈火を燃やして、仮装した人が踊るんだ。上
手くいけば街名産のお菓子貰えるぜ」
「へーなんか楽しそう」

お祭り騒ぎは大好きなウルリカなので、興味津々で店主の話に聞き入っている。
本来の目的を忘れていそうなのでロゼが肩をつつくと、彼女はハッとしてカバ
ンから荷物を取り出した。

「わたし達、錬金術士なの。これ、前の町で受けた依頼の品。こっちの酒場に届けるように言われたんだけど」
「錬金術士か、めずらしいな」

店主はウルリカから包みを受け取り、包装を剥がしていく。
中にはウルリカが調合した依頼の品が入っているはずだ。中身を見た店主は納得したように笑う。

「これか! 確かに俺が隣町の奴に頼んだものだ」
「良かった、間違ってなくて」
「報酬はどうしたらいい? もう受け取ったか?」
「うん。前の町の依頼主さんからもう受け取ってるから大丈夫」

ウルリカが答えると店主はそうか、と頷いて包みをカウンターの下に片付ける。きっと後で使うのだろう。

「じゃあ何か食っていきな。一品だけならタダにしてやるよ!」
「ホントに? じゃあありがたく貰おうかな」

差し出されたメニュー表を受け取り、ウルリカはそれとにらめっこを始めた。


「お嬢ちゃんたちは祭りに参加しないのか?」

頼んだ食事を食べていると、一息ついたのか飲み物を片手に、店主が再び二人の元へやって来た。
店の中は相変わらず騒がしいままだが、余裕があるのだろうか。見ると食事を運んでいた店員も客に交じって話している。誰も驚いている様子がない事から、ここの酒場では普通の光景のようだ。

「楽しそうだけど仮装パーティみたいなもんでしょ? 服の持ち合わせがないの」
「それなら店から通りを二つ超えた先の服屋で衣装の貸出やってるぜ。行ってみたらどうだ?」

店主の提案にウルリカの目が輝く。そのままロゼの方を振り向き、無言で見つめてくる。
ロゼはまたお得意の溜息を吐いてから話し始める。

「止めたって行くんだろ。そんな目で見るな」
「やったぁー! 決まり!」

両手を上げて喜ぶウルリカにロゼは呆れ顔を返す。ホロウウィン祭の話をした時から参加したいと言い出すだろうな、と薄々感じていた。
うりゅもよく理解してはいないが、主人が嬉しそうなので一緒になって笑っている。

「……! ……!」
「分かってる、水を差すつもりはないよ」

ロゼの肩で、喜んでいるウルリカに仕事のことを伝えるべきではない、とマナに忠告されたのでそう答える。
酒場には依頼の有無も確認しにきたのだが、祭りに参加するのであれば、それはまた明日になりそうだ。

「ほら、行くわよ!」

いつの間に食事を平らげたのか、米粒一つも残っていないお皿を残してウルリカは酒場の出口へ向かっている。

「はいはい」

代金を支払い、「早く早く」と急かしてくるウルリカをなだめながら、ロゼも出口へと向かった。



広場では店主が言っていた通り、大きな燈火が燃やされ、その周りを仮装した人々が音楽に合わせて踊っていた。ロゼは広場の隅にあるベンチからその光景をぼんやりと眺める。
彼は先程まで着ていた黒いコートではなく、今はキマイラスキンのような、獣の毛があしらわれたふかふかの衣装を身に付けている。頭にはジラファントの角を模した髪飾り、尾てい骨辺りには尻尾を模した腰飾りを付けていた。

服屋に着いて早々、ロゼはウルリカとは別室に通された。男女が同じ試着室を使うのは良くないという店側の配慮だったのだろう。
仮装するつもりなど全くなかったロゼだが、店員に「彼女も着るのだから」と勧められ、今の格好に落ち着いた次第だった。
ロゼが着替え終わってもウルリカはまだ悩んでいたらしく、先に広場に行ってくれと言われた。
そして今に至る。かれこれ二十分ほど待っているが、ウルリカは現れない。

「相当悩んでるな、これは……」

元々お祭り騒ぎが好きで、そもそも当の本人がお祭りかというぐらい喧しい。今回のようなイベントは彼女にもってこいなのだろう。
ふう、と今日何度目になるか分からない溜息を吐き出すと、マナがロゼの髪の毛を引っ張った。

「どうした?」

引かれた方を見ると、遠くから白い服を纏ったウルリカが走ってきているのが見えた。

「おまたせ~沢山あって迷っちゃった」

息を切らしてやって来たウルリカは、ロゼの目の前で止まって笑いかけた。
真っ白い服は魔女の外套のような見た目をしていた。ウルリカの被っているとんがり帽子も真っ白で、悪い者になるというより、悪い者から守ってくれそうな人の衣装だな、と思った。
ウルリカの周りを飛んでいるうりゅも彼女と似たような格好をしており、頭には小さめのとんがり帽子を被せられている。
ウルリカが動くたびに丈の短いスカートがひらひらと舞い、裾から彼女のすらっとした足が伸びているのが目につく。

「寒そうだな」
「一言目にそれぇ?」

情緒がないわね、と言われて、不覚にも納得してしまう。
夜になって更に気温が下がっているのに、まさか生足で来るとは思っていなかった。ロゼが毛皮の衣装を着ているので、余計寒そうに見える。

「大丈夫よ、まだ平気。寒くなったら引き上げましょ」

ロゼの心配を他所にウルリカは微笑む。そうしてロゼの手を引いて、人々が踊る燈火の元へと向かって行った。


ダンスは特に決まった形がある訳ではないらしい。音楽に合わせて各々が好きなように踊っているようだ。ロゼとウルリカもそれに混ざり、好きなようにステップを踏む。
今は晴れた日の散歩道を思い起こすような軽やかな音楽が演奏されている。二人の動きもそれに合わせて軽やかになる。

「なんか不思議」

手を繋いだままくるり、と一回転したウルリカをロゼが受け止めると、彼女がぽつりと小さく零した。

「どうした?」
「こんなところで、こんな格好して二人で踊ってるなんて」

くすくすと笑いながら続けるウルリカのステップにロゼは合わせて動く。
ロゼ自身はダンスの心得が多少あるが、ウルリカはそうではないのだろう。自然と彼女の動きに合わせて次の動作を決める、という形になる。

「それなら、二人で旅してること自体不思議だろ」

何がどうしてこうなったのか。紆余曲折があったのだが、今思えば不思議な縁だ。
学園時代、あんなに喧嘩をしていて、今もなお喧嘩をしながらも一緒に居る。旅を続けていると時々奇妙な感覚に陥る。

「確かにそうかも!」

たん、と地面を蹴ったウルリカが体を傾けてきたので、ロゼは地面に転がらないように腕で支えてやる。
打ち合わせもなにもしていないが、呼吸が合うのが分かる。それがひどく心地よかった。

「それよりあんたのそれ、キメラなの?」

体勢を戻したウルリカはロゼの肩に手を置き、視線を彼の頭に向けて問いかける。おそらく角のことを言っているのだろう。

「多分ジラファントの角、だろうな」
「本物みたい」

肩に置いていた手を伸ばして、ウルリカが角に触れる。当然飾り物の角に触覚はないが、角の根元が少しずれる感覚がした。

音楽の調子が変わり、次は夜を思わせるバラード調の演奏が流れる。

「魔女とキメラなんて、よく分からない仮装になっちゃった」

肩に手を戻したウルリカはロゼの身体を包むふわふわの毛皮を撫でる。うりゅの毛よりも硬いが嫌いじゃない手触りだった。

「わたし達、どんなふうに見えるんだろ」
「……聖なる魔女と使い魔ってところか」

しばし考えてから答えたロゼの見解を聞いて、ウルリカは小さく吹き出す。

「あんたが使い魔ね、なるほど」

ちぐはぐな仮装にぴったりなシチュエーションが見つかり、そういうのも悪くないなと思ってしまう。もっとも、ウルリカに使い魔扱いされるロゼは堪ったものではないだろうが。

「あんた、こういうの苦手だから、反対されるかと思った」

ウルリカはイベント事が好きで、行った先の町で催しがあれば今回のように進んで参加するタイプだ。
しかしロゼはそのウルリカの様子を少し下がって見ていることが多い。今回も、もしかしたら一人で行け、と言われるかと思っていた。

「仮装するつもりはなかった。けど、まあなんだ、成り行きで……」

濁して言うが、どうやら服屋で押し切られたらしい。押しに弱いのは相変わらずのようだ。

「あとは――お前が楽しんでいるのに、邪魔するのも、な」

ロゼの言葉に、ウルリカの動きがぴたりと止まる。まさかウルリカのことを考えて、彼は参加を決めてくれたのか。胸のあたりがほんのりと温かくなる。

「ちょっと意外だけど、嬉しい。ありがとね、ロゼ」

素直に気持ちを伝えると、ロゼは目を丸くしてウルリカを見てくる。
動きが止まったまま視線が交わる。バラード調の音楽も相まって、二人の鼓動が速くなる。

「……俺も」

小さく言葉を紡ぎ始め、ロゼは続ける。

「いつもと違う雰囲気のウルリカが見れて良かったよ。そういうのも可愛い、
似合ってる」

足が見えてるのはいただけないけどな、と続けてロゼは顔を赤らめる。きっと精一杯の誉め言葉だろう。
自らの言葉に照れているロゼが無性にいとおしく感じ、ウルリカは顔を近づけて彼と唇を重ねた。触れるだけのキスをして、すぐに離れる。驚いた顔のロゼが耳まで真っ赤にしているのが見物だった。

「お、前なぁ! 朝あれだけ騒いでたのに――」
「それとこれとは別よ! さ、踊ろう!」

またも拙い屁理屈を言って、時間差でやってきた自身の頬の熱さを隠すように、ウルリカはロゼの手を取った。
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