ウルリカエンディング後
ちょっとアレな感じ
2021/6/6脱稿
完全に呑み過ぎた。
胃の中がぐるぐるする。ちょっとした拍子で何もかも吐き出してしまいそうだ。
「あーー……」
普段ならこんなことしない。自分の許容量が分からないほどロゼは馬鹿じゃない。飲酒可能年齢になったばかり、というわけでもないのでどの程度で切り上げれば支障が出ないかなんて理解している。分かっているはずだったのに。
気を抜くと回りそうになる視界を必死に捉え、アトリエへの道を辿る。何度も歩いた道だ、今更迷うはずもない。
事の発端は仕事終わりのやりとりだった。
ロゼがこの場所にやって来てから数ヶ月。顔馴染みになった仕事仲間からどこに住んでいるんだ、と訊かれた。すると周りも気になっていたのかロゼに詰め寄るように次々と質問を投げ掛けてくる。
そうこうしているうちにロゼは仲間たちに街の酒場まで連行される羽目になったのだ。
止めどない問いかけにひとつひとつに答えるのも馬鹿らしく適当に流そうとしたところで、何故かウルリカの話になった。この街から程遠くない村が彼女の故郷だからだろうか。
ウルリカを知っている仲間も多く、今度は彼女の話で盛り上がる。男同士の集まりなので、それなりに下世話な話も。
そろそろいい年の頃だと考える者も少なくないらしく、一人手をあげれば自分も、といった様子で彼女を好んでいる、と証言していく。
下劣な話題に乗っかるつもりは無いが、話の的がウルリカであることにロゼは苛立ちを覚える。ついに一人が情事に至る流れを話し始めた所で堪忍袋の緒が切れた。
盛り上がっていた場に火をくべるような一言を放ち、一気に大火事に発展した。
そこからの記憶は正直曖昧で、ひたすら酒を飲まして飲まされて、を繰り返したことしか覚えていない。
気が付けば仲間はみな解散し、潰れた者たちと一緒にロゼは取り残されていた。
やっとの思いでアトリエに辿り着いて扉を開ける。調合スペースから明かりが漏れている。どうやらまだ彼女は起きているらしい。
ドアが開いた音に気がついたのかカウンターの奥からウルリカが顔を出す。
「おかえり。遅かったわね」
ロゼに駆け寄り、ウルリカは笑いかける。頭の回っていない状態で、屈託のない笑顔を向けられると、ひどく刺激が強く感じられた。無意識のままロゼは彼女の頬に手を伸ばす。
戸惑う気配を見せるウルリカに構うことなくその唇を奪う。触れるだけで離れて彼女の体を抱き締める。
「ただいま」
力を込めれば控えめに背中に手が回った。手のひらの熱が心地好い。
別に酒場での話にあてられたわけじゃない。ただ、ウルリカの肩に埋めた鼻から香る彼女の匂いは、回ってない頭の中を麻薬のように侵食する。
そっと首にも口付けるとくすぐったかったのか、ウルリカが身じろぐ。構わず二度、三度と繰り返し時折首筋を沿うように舌を這わす。
背中に回った手がロゼの服を掴む。抗議しているようにも感じるが、いつもの喧嘩言葉は出てこない。
目線だけ彼女の顔に向けると、怒っているような、何かを我慢しているような、そんな表情をしていた。
煩悩を振り払い首から顔を離すと、ウルリカは人差し指をロゼに向ける。
「あんたお酒臭いわよ」
さっさとお風呂入りなさい、と鼻先にくっつきそうなほど指を近づける。
やはり怒らせたか、と回らない頭なりに正気を取り戻そうとしているとぴんと伸びていた指が弱く曲がる。
「それからなら、別にいいわよ」
唇を尖らせてもごもごと誤魔化すように告げられたのは許しの言葉だった。
「……やっぱり今のナシ!」
「残念、確かに聞いたからな」
軽口を返すと真っ赤な顔をしてウルリカは二階に上がって行った。ばたん、と勢いよく扉が締められる音。恐らく自室に戻ったのだろう。
仕事仲間がなんと言おうと、ウルリカはロゼにならこうして触れる許可をくれるのだ。それが堪らなく心地好い。あいつらとは違うのだ、という優越感で満ちる。
「さてと」
据え膳食わぬは何とやら。ロゼは今日一番のご馳走にありつくため、風呂場へと急いだ。