Albero
Nacht gehen

ウルリカエンディング後
付き合ってそうなロゼウル
2021/11/16脱稿



淹れたてのコーヒーが入ったカップを片手に、ウルリカはキッチンの窓から外を眺めていた。
外は暗く、少し離れたところにある街灯が仄かに地面を照らしている。
古びた窓の戸を開けると外気が入ってきた。思ったよりも寒くない。
手に持ったコーヒーをひと口飲む。家から漏れる光はウルリカが居る二階のキッチンと、突き当たりの部屋からだった。

「まだ起きてるのね」

そこはロゼの自室だった。今日は討伐依頼もなく、昼間はアトリエで調合を手伝ってもらっていた。
夕飯を食べた後は特に作業もなかったので自室に引っ込んでいたのだが、どうやらまだ何かしているらしい。
ウルリカは窓から外に顔を出して息を吸い込む。
秋と冬のあいだにある夜。そんな季節特有の香りが鼻孔をくすぐる。
無性にこの夜を満喫したい気持ちが溢れてきた。
いてもたってもいられなくなったウルリカは、まだコーヒーの残っているカップをテーブルに置き、突き当たりの部屋へと向かった。



コンコン、と扉をノックする音。
怪訝に思いながらも開けるといつもよりラフな格好のウルリカが立っていた。頭の上にはうりゅが乗っているがどうやら眠っているらしい。

「どうした」

時間はもう夜だ。明日もアトリエで作業があるならそろそろ眠る頃合だろう。
そんな時間にウルリカがロゼの部屋を訪ねてくるとは。何かあったのかと勘ぐってしまう。

「もう寝る?」
「いや、まだ少しやることがあるから」

ちらり、と振り返った自室の机の上にはいつも携帯している短剣が置いてある。
普段は光の剣を使って討伐依頼をこなすが、何かあった時のために予備で持ち歩いているものだ。
使用頻度は少ないが手入れは定期的に行っている。柄の汚れを取ったら今日は終わりにしようと思っていた。

「じゃあちょっと付き合ってよ」

にっと笑ったウルリカはそのままロゼの手を取る。

「どこ行くんだ?」

手を引いて階段を降り、アトリエの裏口から外に出る。
しっとりとした夜の空気がロゼを包みこむ。

「どこでも。ちょっと散歩したいの」
「もう遅いだろ。明日にした方が……」

もっともな意見をロゼが返すとウルリカは笑いながら肩をすくめる。

「分かってないわねぇ。夜だから良いんじゃない」

そうしてロゼの手に指を絡め直す。細い指の感触に柄にもなく心臓が跳ねる。

「行こう。そんなに長い間じゃないから」
「分かったよ。少しだけだぞ」

絡められた指先を握るとウルリカは嬉しそうに笑って先を歩き始めた。
どうにもあの顔に弱いな、とロゼは苦笑を漏らすしか無かった。




アトリエの裏手にある森には向かわず、ウルリカはロゼの手を引きながら街道沿いを歩いていく。
もう夜も深まってきている時間なので辺りに人影はない。村からも隣町からも離れた場所なので民家の明かりというのも見当たらない。
その代わりに申し訳程度に置かれた街灯だけが道を照らしていた。

「静かね」
「こんな時間だからな」

のんびりとした歩調で歩いていくウルリカは本当にどこに行くのか決めていないようだ。この時間なので、どこか特定の場所に向かうというのもおかしな話なのだが。
ロゼはいつもの装備だが、ウルリカは部屋着のような姿だ。そこまで気温が低くは感じないが、寒くないのだろうか。

「なんでまた急に散歩なんだ?」

少し音程の外れた鼻歌を歌いながら進むウルリカにロゼは問いかける。

「なんとなく。いい夜だなーって思ったから」

答えてまた鼻歌を続ける。なんの曲か分からないが、彼女がご機嫌であることは伝わってくる。
ウルリカの言う通り、今日の夜は心地いいとロゼも思う。この季節の夜らしい匂いがして、空に浮かぶ三日月も綺麗だ。
しかしウルリカのことだから、いい夜だと感じたならロゼになど声を掛けずに出掛けてしまいそうなものだが。

「なんで俺を誘ったんだ?」

こういう言い方をするとまた嫌味っぽいだろうか、と発言してから思った。単純に疑問に感じただけなのだが、もっと他に言い方があっただろう。
しかしウルリカが怒るような素振りはなく、繋いだ手が少し反応して考える仕草を見せる。

「……今日はペペロンが居ないし」

返ってきたのはありきたりな回答だった。ウルリカならロゼよりも先にペペロンを頼るのが常だ。
ロゼはそれを不満に思うことも多少あるが、自分よりも彼の方が戦闘面でも頼りになることを分かっているので飲み込む努力をしている。
だからこそ、この返答は分かっていたような、やっぱり残念なような複雑な気持ちにさせられる。

「あいつの代わりになれるっていうなら光栄だな」

不満を飲み込む努力をしているが、完全に出来ているわけではない。どうしても嫌味な形で表してしまうことも多々ある。これも言ってしまってから後悔した。

「……ごめん、やっぱり今のなし」

自分の発言にどうフォローを入れようかロゼが頭を悩ませているとウルリカが首を横に振りながら言った。

「ペペロンが居ても、あんたを誘ったわ」

思ってもなかった言葉にロゼは目を丸くする。

「あんたと、この夜を歩きたくなったのよ。だから、誘ったの」

普段無茶苦茶ばかりのウルリカからこんな素直な気持ちが聞けるとは。驚きで何も言えなくなったロゼの顔を見て、ウルリカは意地悪く笑う。

「その顔、いつもの仏頂面より似合ってるわよ」
そして繋いでいない方の手でロゼの鼻先をつつく。頬に熱が集まるのが分かった。
「うるさいな……」

顔を手で隠しながらそう返すのが精一杯なロゼの様子を見て、ウルリカは更に笑う。満足そうだ。

「またいい夜は付き合ってね」
「……いつでもいいよ」

お前の頼みなら、と続けるとウルリカは嬉しそうに顔を綻ばせる。
頼られる分野はペペロンとロゼとで差があるが、ウルリカの笑った顔が見られるのならなんでも良い。
ロゼは手を引いてまた歩き出したウルリカの後ろ姿に笑いかけた。


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