ロゼとウルリカへのお題は
【不器用な愛情 / 魔法が使えたらいいのに / 傷付く準備は出来ている】です。
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2021/1/6脱稿
「はい、これ」
突然目の前に差し出されたのは、孔雀石がはめ込まれた小ぶりのピアスだった。
「……なんだ?」
これがなんなのか、何故急に渡してきたのか、色んな意味を込めてロゼはウルリカに問うた。
すると彼女は目を泳がせたあと、何も言わずにロゼの掌にそれを押し付けてきた。
「おいっなんか言えよ」
ウルリカの思考や行動が突拍子もないことはいつも通りだが、大体は意味のわからない因縁をつけられる。
だからこんな風に何も言わずに物を押し付けてくるのは、どことなく薄気味悪い。何が裏があるのではないか、と勘繰ってしまう。
「……あんた、これから仕事でしょ」
「は……?」
気まずそうに口を開いたかと思えば、当たり前の言葉が返ってきた。
ウルリカが言う通り、ロゼはこれから魔物の討伐任務に向かう。山の麓で目覚めてしまった古代龍が暴れ回っているらしく、街の憲兵や傭兵たちでは手に負えないので駆り出されたのだ。
だがそれは少し前から彼女にも話していたので、昨日今日急に決まった話ではない。そもそもこの手の中のピアスと関係性があるとは思えない。
「それは、そうだが……」
「……ほら、そろそろ行かないと遅刻するわよ」
やはり居心地悪そうにウルリカは言い、ロゼの背中を押してアトリエから追いやる。
彼女にされるがまま外に出たものの、結局ロゼは何故これを渡されたのか分からないままだ。
「じゃあ、行くけど、あまり仕事を詰めすぎるなよ」
アトリエの借金返済資金を稼ぐために、ウルリカは時々無茶な仕事の仕方をする。ロゼが来てからは随分ましになったとペペロンが言っていたが、彼が仕事で不在になるとすぐに無謀な数の依頼を受けてしまうのだ。
それをきっちりこなして居るからいいものの、体調を崩すこともままある。何度言っても聞かないため、せめてもの思いを込めて釘を指しておく。
「分かってるわよ。あんたも、」
いつものようにキッと眉を釣り上げて反論されるかと思ったが、ウルリカはそこで言葉を切る。
彼女の怒声を待っていたロゼは訪れたしばしの静けさに耳を傾ける。す、とウルリカが息を吸う音が聞こえた。
「あんたも、ちゃんと帰って来てよね」
言い終えて、眉と口をへの字に曲げて、不可思議な顔をするウルリカ。
ロゼはやっと思い当たる。珍妙な顔をしている彼女が渡してきたこれは『御守り』だ。ピアスに嵌め込まれた石は、確か魔除けの効果を持つと聞いたことがある。
気休めでも良いから、ロゼの安全が少しでも保たれますように。そういう願いがこのピアスには込められているのだろう。
全てを察したロゼはずっと身に着けていたい金環のピアスを外し、今しがたウルリカから受け取ったお守りを耳に留める。その様子をウルリカはまだ下手くそな無表情で見守っていた。
「必ず帰ってくる。お前の御守りがあるんだからな」
ロゼの耳で輝くそれは、ウルリカの願いそのものだ。
何も伝えなかったが、全部伝わってしまったことを理解したウルリカの頬に朱が差す。
「当たり前よ! ほら早く行ってきて!」
ようやくいつものウルリカらしい声が聞けたな、とロゼは笑い、軽快に手のひらを振ってアトリエを後にした。
こんなことをされたら、一刻も早く仕事を済ませて、彼女の元に帰る他、選択肢は無いのだった。