Albero
冬の朝

本編 冬頃の話
2021/1/14



明日は朝から探索に出かけよう。昨日の夜、ウルリカはそう考えながら布団に入った。
決意通り、朝はいつもより早く起きることができた。めざましよりは寝坊してしまったが、許容範囲だろう。
時間が早いこともあり、うりゅは毛布にくるまってまだ眠っていた。わざわざ起こすのも気が引けて、ウルリカはうりゅを起こさずに部屋を後にした。

寮の外に出ると、冷蔵庫の中にいるかのような寒さだった。
ただ天気はいいようで、空は澄み渡っている。日差しもあるので、昼には暖かくなりそうだ。
早速採取地に向かおうとウルリカが一歩踏み出した時、足の下からパキッと音がした。

「えっ、なにっ」

驚いて再び元の位置に戻る。足を置いていた場所に生えた草はうっすらと白く染っていた。

「なにこれ?」

しゃがみこんで草に触れてみる。白い部分は手の体温で溶けて水になってしまった。
こんなものは初めて見た。寒くなると雪というものが降る地方があるらしいが、もしかしてこれがそうなのだろうか。

「わーすごいすごい!」

踏み締めると音が鳴り、手で触れると溶けていく。不思議なものの正体は分からないが、ウルリカの好奇心をくすぐるには十分だった。
探索に行く、という目的も忘れてウルリカは草地の上を狙って歩いていく。
煉瓦道にはこの白い何かは落ちていない。ただ、水たまりがあったらしき場所は氷を張っていた。

「えいっ」

わざと足を踏み入れれば氷が割れる。その音と感触が気持ちよくて、ウルリカは凍った水たまりを見つけて積極的に踏みに行った。
パキパキと聞き慣れない音が誰も居ない道に響く。こんなに楽しい体験ができるのなら、早起きをした甲斐もあったというものだ。
浮かれた気分で寮から学園へ続く道を歩いていると、向こうから見覚えのある男が歩いてきているのが見えた。
向こうもウルリカに気が付いたようで、目が合った瞬間、思い切り顔をしかめられた。

「なんでこんな所にいるんだ」

開口一番、挨拶もせずにロゼは言った。

「わたしがどこに居ようと勝手でしょ!」

嫌ならば声をかけて来なければいいのに、何故こうも毎回この男は絡んでくるのだろうか。ウルリカだって好きで喧嘩している訳では無いのに。

「せっかくいい気分だったのに台無し! 初めて雪も見れたのに」
「雪……?」

ロゼが訝しげに問いかけてくるので、ウルリカは白く染った草地を指さす。

「あれよ。まさかあんたも見たことないの?」
「いや、雪は知ってるし、見たこともある」

優位を取れるかと思ったが、ロゼは雪の存在を知っていたようだ。さらに面白くないな、と感じたが、踏むと音がすることはさすがに知らないのではないだろうか。

「でもあれって踏むと――」
「お前が言ってるのは霜だな」

得意げに語ろうと思ったが、それはロゼの声に遮られてしまった。
聞き慣れない単語を発したロゼを見ると、彼もまたウルリカの事を見ていた。

「しも?」
「霜。天気が良くて風もない、寒い冬の朝に起こる現象だな。雪とは違う」

説明しながらロゼは足元の草地に触れる。ウルリカの時と同様に、手の体温によって白い模様――霜は消えてしまった。
あっさりと不思議なものの正体を明かされてしまった。それもウルリカが思っていたものとは違うものだ、と否定されて。

「なによ! ちょっと知ってるからって偉そうに!」
「別にそんなこと言ってないだろ」

知らない物を見つけて嬉しかったこと、自分だけが秘密を知っていたように錯覚していたこと、全てを否定されたようにウルリカは感じてしまった。
ロゼとしては間違いを指摘しただけで、そのままウルリカが勘違いしててもなんら問題はない。ただ、後から彼女が真実を知った際、なぜ教えなかったのかと詰め寄られるのも面倒だと思っただけだ。

「ホント、あんたと会うとろくなことないわ」
「それはこっちの台詞だ」

ぷい、と顔を背けると呆れたような声が返ってきた。どうせ今頃、得意のしかめ面のまま溜息をついているのだろう。ウルリカにはもう見なくても分かる。
これ以上此処に居てもウルリカの気分が晴れることはない。一刻も早くこの男から離れることが先決だと判断し、ウルリカは「じゃあね!」と小さく言って、霜の降りた道を駆けて行った。
彼女が探索に行くために早起きをしたことを思い出すのは、お昼もとうに過ぎた頃だった。



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