ウルリカエンディング後
モブが出てきます
2021/1/27脱稿
こそこそと、街道沿いに建っている一軒家の周りをマスクをした男が二人並んで歩いている。
「ここか?」
「確かそのはずだ」
噂によればここで『錬金術士』と名乗る女が一人で住んでいるらしい。
時刻は夕方。近くに森があるからか、街からも村からも離れているからか、この家の周りはやたらと暗く感じられた。ぼんやりと家の奥側から明かりが漏れているのが見える。
男二人は人気のない街道から逸れて、家の裏側へと回る。
窓から家の中の様子を伺うと、大きな釜の前で赤いバンダナを身に着けた金髪の女が、ひとり何か作業をしていた。手には片手におたまのような物、もう片方に分厚い本を持っている。
他に誰かが居る様子や気配はない。裏口へと回って、音がしないようにゆっくりとドアノブを回す。
人が一人通れるほどの隙間だけ開け、男二人は体を中へ滑り込ませた。
金髪の女は彼らが入ってきたことに全く気が付いておらず、呑気に鼻歌を歌いながら釜の中をかき混ぜていた。
前を行く男が懐から拳銃を取り出し、もう片方の男は刃渡り10センチほどのナイフを掲げる。
そろりそろり、と近づき、女の後頭部に銃口を突き付ける。
「動くな」
ぴくり、と女の肩が揺れる。ちらり、と男を見る新緑色の瞳は不快そうに歪んでいた。
「お前が錬金術士って奴か?」
「……そうよ」
澄んだ高い声で答えが返ってきた。一人で暮らしている、というからもっと年老いているのかと思っていたが、存外若いらしい。
「ここにある金になりそうな商品、全部渡しな」
「なんで」
全く怯んでいる様子のない女に、脅すように男は銃口で彼女の後頭部を突く。
拳銃を持った男が首を振ると、もう一人の男がナイフを女の首元に突き付けた。
「この辺りじゃ珍しいが、錬金術士の作るものっていうのは高く売れるんだってな?」
「俺らは金が必要なんだ。大人しく渡せば悪いようにはしないぜ」
下品な声で男たちは笑う。女一人に大の男が二人、抵抗されたとしても易々と抑えられる自信があった。
それでも暴れるようなら痛めつけて、傷物にしてしまえばいい。心も体も抵抗することを諦めさせてしまえば簡単だ。男たちは今までもそうやって強盗を繰り返してきた。
「なるほど。確かに、お金が無いのは困るわよね」
それでも尚、普通の声色で女は言葉を続ける。体も震えていないため、恐らく強がりではないのだろう。
しかしたかが女一人だ。武器を持っているようにも見えない。腰に緑色の石を携えているが、魔法を使うには時間がかかるだろう。その間にどうとでもなる。
「そうか、分かってくれるか」
「ええ。……でも、人の物を奪うのは、良くないわね」
ぴり、と空気が揺れた。ナイフを持った男が気配に気が付き、切っ先に力を込める。女の白い肌から血が零れ始める。
「抵抗しても無駄だぞ!」
「このアトリエの事、何も知らずに来たんだ?」
男の視界の端を白い何かが横切る。目で追うと、それは白い獣だった。今までこんな生き物は見たことがない。
「なんだ、こいつっ」
「うりゅ、お願い」
「うっ!」
可愛いらしい見た目とは裏腹に、その瞳に見つめられると心の奥底から黒々したものが込み上げてくる。
どうしようもない気持ちに呑まれそうになる。このままでは計画が台無しだ。
「やめろっ!」
拳銃を持った男が冷や汗をかいたまま、銃口を女に向け、引き金を引いた。
たん、と乾いた音。弾丸は女の前に突如現れた青白い何かに遮られてしまい、床へと落ちる。
「知ってる?このアトリエにはね、才色兼備の錬金術士と可愛いマナ、それから――」
茫然としている男の目に、空色の髪の毛をした男の姿が映る。黒いコートを羽織ったその姿は、今まさに迎えようとしている夜をそのまま切り取ったかのようだった。
隣でぐっ、と声を上げてナイフの男が姿を消す。振り返るとそこには緑の服を着た大男が立っていた。
「こわーい番犬が、二匹いるのよ」
そう言って女は不敵に笑った。